音楽の取り替え子(changeling)

「ネットで普及する音楽『マッシュアップ』は著作権の常識を変えるか」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040604-00000004-wir-sci

 二つの歌曲それぞれを歌と曲に分け、それぞれを組み合わせて新しく(?)歌曲を作り上げることをマッシュアップ(mashup)と呼ぶそうです。…ん? これは単純な複製行為なのか、それとも内容を改変したということで翻案なのだろうか? なかなかに悩ませてくれるアレンジの一つです。
 同じ作者の作品ならばともかく、それぞれ思想の異なる作者の作品が混ぜこぜにされるというのは、あまり気持ちのいいものではありませんが…。

コードは著作物か

「『コードの借用』は違法か--開発者の認識と法律にズレ」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040604-00000010-cnet-sci

 コンピューターを動かすプログラムコード。プログラム全体を見れば複雑怪奇な命令群(ソース)であっても、一つ一つの実行単位で見てみると、呆れるほど単純な命令の組み合わせだったりします。なにしろ、実行可能なように組み合わせなくてはいけないわけで、間違った組み合わせは、エラーやバグといった無常な返答がPCから返ってくるだけ。自ずと「こういう機能を実現するにはこの組み合わせ」というのが出てきます。
 プログラムを長く組んでいると、特定の機能を組むときは、以前に作成したプログラムからコピーしてくることが多くなってきます。再利用可能な機能はライブラリとして蓄えられていくわけですが、ソウトウェアの依頼者が異なると、以前の依頼者から「そのコードはうちのソフトで使用されている」と指摘される可能性がでてくるわけです。
 わざわざライブラリという形にしていなくても、よく使われる機能の記述はそのプログラマー特有の組み方で統一されていきます。つまり無意識に同じコードを使いまわすこともあるわけで、それをもって著作権がどうのと言われても…というのが、プログラマーの本音ではないでしょうか。

 私自身はプログラムソース自身を著作物として保護するのは、他の著作物との特性の違いからして畑違いだと常々感じているわけですが。プログラムはあくまでもコンピューターに実行させるための命令群。そして、コンピューターは道具としての側面を持っています。道具という側面を持っている部分に関しては、著作権法ではなく他の法律などで保護するのが本筋だと思うわけです。

音楽の鎖国

 著作権法の改正案である「音楽CDの還流防止措置」が成立した模様です。
 もとは「レコード輸入権」と称され、邦楽などがアジアで販売された際、その価格差が顕著であるために逆輸入されると日本の著作権者は大打撃を被る…というのが改正趣旨でした。
 日本の音楽CD(アルバム)はおおよそ2500〜3000円、かたやアジア向けは1000円前後ということで、輸入に掛かるコストを加算しても倍近い価格差があることから、同じタイトルがあれば大抵の人が安い逆輸入版を購入することでしょう。

 …と、こんな説明を聞けば、多くの人が日本のアーティストの利益を守る上で必要な保護政策だと思うかもしれません。けれども提案されていた条文の内容は、そんな趣旨からは大きく外れた、桁違いに強力で影響範囲が大きなものだったのです。


 立案当初は「レコード輸入権」と称されていた改正内容ですが、その実態は権利の新設などではなく、侵害とする行為の範囲を拡大するものでした。まさにこれは先の中古販売問題で、一度市場に出回った商品に対しては、「中古として売るな」等の流通に関する権利行使はできない(ファースト・セール・ドクトリン)という判例を回避するための苦肉の策と言えます。
 権利ではないため、これを実行するということは民事訴訟刑事告訴を行うということになります。そしてこれを実行できるのは、日本の著作権法で保護する対象となった著作物(今回はレコード)の権利者です。ですが、ここに大きな落とし穴がありました。

 改正案の成立前から、掲示板やブログで「洋楽の危機」として悲痛な書き込みが繰り返されていますが、その原因は日本の著作権法の保護対象に関わる規定にあります。
 当然ながら日本人が作るレコードは無条件で日本の著作権法の保護対象となります。外国人が作るレコードも条約上守るべき作品ですが、日本の著作権法に基づいた権利行使などはできません。ところが、外国人が作るレコードであっても、最初に日本でレコード化した場合は日本の著作権法でも保護の対象となります。いや、そもそも日本向けレコードは日本人に製作依頼したら?

 著作権法第8条(保護を受けるレコード)を満たすことにより、内外価格差を意図的に作り出して、大きな利潤を得るという商戦も可能になるわけです。なにしろ訴訟がらみですからそんな意図が無かったとしても、日本向けCDがあるというだけで零細な輸入販売店は萎縮してしまうかもしれません。逆に日本びいきのアーティストが、サービスのつもりで日本先行販売を行っても、特典付の価格差が在らぬ誤解を生み出してしまうことも…。

はじめに

 日本の著作権法は、日本では珍しく(?)世界の最先端を行く法律です。現在の著作権法に改正されて三十年余りの月日が経ち、世の中の移り変わりと共に改正を繰り返しています。
 私は以前、必要に迫られ著作権法を知り、創作家の視点でこの法律を見つめ、Webの広まりと共に啓蒙を行いその役割を終えました。今ではインターネットで最新の条文が参照でき、国会中継も閲覧でき、数多くの専門家が疑問に答え、昔とは比べものにならないほどに著作権法を理解する環境が整っていると思います。

 ですが、最近、著作権法のある原則が崩されるような改正が数多く見受けられるようになったと感じています。
 旧著作権法から構造的に練り直され、文化の発展と創作者の利益をバランスよく配分された条文が、今や醜くも継ぎ接ぎだらけとなり倒れんばかりに傾いたものになってしまったと思わざるを得ません。

 文化とは何か、という命題が見失われつつある今、著作権法を新しく作り直す時期に来ているのではないかと考えています。このブログでは現状の法改正や世情を分析しつつ、新しい著作権法を模索する場として進めていくつもりです。