音楽の鎖国

 著作権法の改正案である「音楽CDの還流防止措置」が成立した模様です。
 もとは「レコード輸入権」と称され、邦楽などがアジアで販売された際、その価格差が顕著であるために逆輸入されると日本の著作権者は大打撃を被る…というのが改正趣旨でした。
 日本の音楽CD(アルバム)はおおよそ2500〜3000円、かたやアジア向けは1000円前後ということで、輸入に掛かるコストを加算しても倍近い価格差があることから、同じタイトルがあれば大抵の人が安い逆輸入版を購入することでしょう。

 …と、こんな説明を聞けば、多くの人が日本のアーティストの利益を守る上で必要な保護政策だと思うかもしれません。けれども提案されていた条文の内容は、そんな趣旨からは大きく外れた、桁違いに強力で影響範囲が大きなものだったのです。


 立案当初は「レコード輸入権」と称されていた改正内容ですが、その実態は権利の新設などではなく、侵害とする行為の範囲を拡大するものでした。まさにこれは先の中古販売問題で、一度市場に出回った商品に対しては、「中古として売るな」等の流通に関する権利行使はできない(ファースト・セール・ドクトリン)という判例を回避するための苦肉の策と言えます。
 権利ではないため、これを実行するということは民事訴訟刑事告訴を行うということになります。そしてこれを実行できるのは、日本の著作権法で保護する対象となった著作物(今回はレコード)の権利者です。ですが、ここに大きな落とし穴がありました。

 改正案の成立前から、掲示板やブログで「洋楽の危機」として悲痛な書き込みが繰り返されていますが、その原因は日本の著作権法の保護対象に関わる規定にあります。
 当然ながら日本人が作るレコードは無条件で日本の著作権法の保護対象となります。外国人が作るレコードも条約上守るべき作品ですが、日本の著作権法に基づいた権利行使などはできません。ところが、外国人が作るレコードであっても、最初に日本でレコード化した場合は日本の著作権法でも保護の対象となります。いや、そもそも日本向けレコードは日本人に製作依頼したら?

 著作権法第8条(保護を受けるレコード)を満たすことにより、内外価格差を意図的に作り出して、大きな利潤を得るという商戦も可能になるわけです。なにしろ訴訟がらみですからそんな意図が無かったとしても、日本向けCDがあるというだけで零細な輸入販売店は萎縮してしまうかもしれません。逆に日本びいきのアーティストが、サービスのつもりで日本先行販売を行っても、特典付の価格差が在らぬ誤解を生み出してしまうことも…。